Sansan Innovation Award 2023
Sansan Innovator
INTERVIEW
- 梅乃宿酒造株式会社
- 創業1950年(創業:1893年)
- 社員数71名(2024年4月1日現在)
- 事業内容日本酒、リキュール、各種酒類の製造・販売、商品開発
名刺管理での成功体験から
データに基づく会話が
できるようになりました
データに基づく会話が
できるようになりました
受賞企業代表
吉見 晃宏 氏
物流部 商品管理課 課長
Sansan Innovation Award受賞を振り返ってみていかがですか。
びっくりしました。お酒にもいろいろな賞があって、当社としても受賞した経験はあるのですが、デジタルツールを活用して受賞できるとは思っていませんでした。受賞に至った要因の一つは、営業部において目に見える形で大きな成果を上げられたことでしょう。130年続く酒蔵で、しかも「Sansanって何?」というレベルからのスタートにもかかわらず、短期間でこのような成果につなげることができたのは、新しいことを柔軟に受け入れる社員の協力があってこそだと思います。経営者が常々口にしている変革とチャレンジの精神が全社に根付いており、それが取り組みを推進する過程で背中を押してくれました。
取り組みを始めたきっかけは何でしたか。
営業部のミッションとして、コロナ禍で大きく減少した売り上げの回復に取り組んだことでした。
私は2022年4月に、営業部の課長とし て中途入社しました。最初の仕事は、当然のことながら前任の営業担当者からの引き継ぎとお客様へのあいさつでしたが、手元に集まった名刺をファイルにとじるという作業が非常に面倒だったんですね 。それは、前職で使っていたSansanの便利さが染み付いていたからです。取引先の情報も前任者に直接聞くしかなく、営業活動に必要な情報にたどり着くまで、かなりの時間と手間がかかってしまう。私が入社する以前から導入されていたSFAツールも、十分に使いこなせている状況ではなく、あらゆることを効率化していく必要性を強く感じました。営業担当者が個人商店化していて、お客様の情報を活用できていないことを課題と感じ、まずは情報共有の仕組みを立て直さないと成り立っていかないとも思いました。そこで、売り上げを伸ばしていくことを名刺管理から始めようと思い、導入済みのSFAツールと連携できるSansanを使い始めました。
私どものような中小企業の強みの一つは、経営陣との距離の近さです。早速社長に話をしたところ、言われたのが「費用対効果はあるの? 紙での管理でも十分なのでは?」ということ。そこで私は「絶対にこれで売り上げが上がります!」と宣言して、Sansan導入の承諾を得ました。正直に言えばハッタリもあったし、不安の方が大きかったですが、言ったからにはやらねばと思いましたね。
取り組みによって、どのような変化がありましたか。
Sansanを知らない社員も多い中、まずは社外と取引のある部署に、退職者から引き継いだものも含め、手元にある名刺をすべて取り込んでもらいました。さらに、SFAツール内の掲示板を通じてSansanの使い方を伝えるなど、細やかに情報発信を続け、徐々に慣れていってもらいました。
良い流れになってきたと感じたのは、導入から数カ月後のことです。Sansanに取り込まれた名刺から、営業部で新しい取引が成約する可能性が出てきたのです。これをきっかけに「名刺を取り込めばいいことが起こるかもしれない」という意識が社員の間に芽生え、積極的に名刺が取り込まれるようになりました。その結果、連携させたSFAツールの顧客情報が最新化されるようになり、取引先の担当者が変わっても常に最新の情報が手に入るという、効率的な営業をしやすい環境が生まれました。
当社に限らず日本酒業界は、伝統がある分、長年の経験と勘に頼るところが大きく、それは営業についても例外ではありません。しかし、今はみんなが当たり前のようにSansanを使い、共にデータを確認しながら想像力を膨らませ、取引先ごとに提案を考えています。過去の実績だけにとらわれることなく、未来を数字で語れるようになったことは、とても大きな変化だと思います。社員間のコミュニケーションも増え、みんなで仕事をしているという一体感を感じています。
デジタルツールやDXに関する展望を教えてください。
デジタルツールを一言で言うなら、「みんなをご機嫌にしてくれるもの」でしょうか。ツールを活用すれば、お客様とのつながりを持てる、そのつながりをさらに広げられるということは、成功体験を通じて社員が認識しています。Bill Oneも導入し、ツールに対する抵抗感は全社的になくなってきました。対面でお客様としっかり話すことを大前提に、ツールの活用をより良い形で推進していけば、もっと効率的に、つまりご機嫌に仕事ができるようになるのではないでしょうか。
Sansanによって新しい取引ができるようになり、売り上げも順調に伸びてきているので、すごくワクワクしています。私が今在籍している物流部門では、受注から出荷までのプロセスにおいて、まだ紙を使っている部分があるので、こうしたアナログの部分も変えていきたいです。今後はさらなる海外展開で売り上げを伸ばすことにも意気込んでいます。海外の販路において非常に重要になる与信管理でも、デジタルツールを活用できそうですね。
10年前の名刺を
起点にした新規開拓から
1億円の取引が生まれました
起点にした新規開拓から
1億円の取引が生まれました
小山 恵莉子 氏
営業部 課長(東京営業所)
取り組み前、営業部門にはどのような課題がありましたか。
かつては既存の取引先ばかりに目を向けていて、新規開拓はほとんどできていませんでした。「梅乃宿の商品を扱わせてください」という問い合わせに対応するという、待ちのスタイルだったんですね。そのため、コロナ禍を経て市場が100%戻る保証のない状況では新規開拓が必須だったのに、その手法が分からなかったのです。
営業担当者も、それぞれのやり方で頑張っているという完全な個人商店状態。目標を掲げ四半期ごとに到達度を確認するといったことはしっかり行っていましたが、取引先の情報を引き継ぐ場面では、とにかく時間がかかっていました。また、Sansan導入の5年ほど前にSFAツールを導入していましたが、日報はExcelに入力して紙に印刷したもの。本社にファクスで送ると社長のコメント入りのものが返送されるという、紙ベースのなんともアナログな運用でした。SFAツールも活用しきれてはいなかったと思います。
取り組み後の成果について教えてください。
ここまで大きな売り上げに直結するとは思っていませんでした。
退職者が10年前に交換した名刺の中に、偶然、国内大手酒販店の担当者の名刺を見つけたのです。メールと電話でアプローチしたところ、すぐに商談が決まり、当社の商品を扱いたいと以前言っていただいていたこともあり、取引できることになりました。それが、これまでにない概算1億円の取引となり、今や売り上げの柱の一つにまでなっています。このお客様の名刺が、データ化されずに退職者から引き継いだファイルに入ったままであれば、連絡することもなかったでしょう。
営業の質も格段に上がりました。例えば、取引先から電話をいただいた際、電話番号から相手の情報や商談履歴を把握した上で、折り返しの電話をすることができます。また、以前は社内から「あの人は誰だっけ?」といった問い合わせが営業部に来ることが多かったのですが、まずはSansanを検索するという選択肢ができたことで、ほぼなくなりました。
営業部門に起きた変化とはどのようなものでしたか。
「新規開拓をする時はまずSansanを見よう」という流れが生まれました。前回の成功事例を横展開する形で、世界規模で展開されているお客様との過去の接点から、商談を進めることができたのです。今回は3カ月というスピードで、前回を上回る数億円規模の取引になる見込みです。
今後、会社の規模をさらに拡大していくに当たっては、取引先ごとの目標を設定し、商品別の販売計画をきっちり立てていく必要があります。ブランド価値を守りながらより多くのお客様に商品を届けるには、取引先に梅乃宿の商品を売ろうと思っていただくことが必要で、営業の質をさらに上げることが不可欠です。取り扱いの額に関係なく、取引先とどれだけ密にコミュニケーションを取れるかが大事であることは変わりません。こうした情報を管理するには、紙よりデジタルの方が、慣れてしまえば圧倒的に楽です。
今はもう導入前を思い出せないくらい、Sansanを使うことが当たり前になっています。余裕ができたわけではありませんが、営業の質が変わりました。これは「効率化」と言ってしまうにはもったいないほど、革命的な変化だと思います。
仕入れ先管理やコスト削減への
活用が見えてきました
活用が見えてきました
平岡 勇貴 氏
物流部 調達課 課長
取り組みの前後ではどのような変化がありましたか。
当社はデジタルやITといったものに弱い組織だと思っていました。私自身についても同様です。Sansan導入当初は、全社員が本当に使えるようになるのか疑問に思っていましたが、いざ使ってみると、難しい操作は一切なく、全社員が即座に情報を共有できています。今回の取り組みで、会社全体としてデジタルに対する苦手意識が取り除かれていると感じています。
私は営業、総務を経て、2023年4月に新設された物流部調達課に異動となりました。かつては引き継ぎの際、取引先の名刺を手渡ししたり、Excelに残していたデータをそのまま渡したりといったアナログな方法を取っていました。そうした意味では、私のように部署を複数回異動した者が、デジタルツールの便利さを一番感じているのではないでしょうか。いただいた名刺が資産であることも、今回改めて感じました。部署異動が、取引先を増やしたり変えたりするチャンスにもなると思っています。業務上、ここまで大きな変化はこれまでなかったですね。
物流部の業務はど のように変わりましたか。
名刺管理というと、外部との接点が多い営業部で重宝されるものであって、名刺を集めるのも「営業部の仕事では?」と思っていたんです。しかし実際は、毎日のように利用している私を含め、営業部の次にSansanを活用しているのは、われわれの部署かもしれません。商品の原材料や機械関係を含めた資材の仕入れを担う中で、業務効率が格段に上がりました。
私たちの仕事には、原材料の仕入れだけでなく、資材や機械メーカーの仕入れ業者との打ち合わせなど、日々多数の交渉があります。関わる取引先も100社以上と多く、担当者が誰なのか、これまでどのような折衝をしてきたのかが非常に重要になります。私が配属された時も、当社が今どういった仕入れ先と関わっていて、どの担当者と接点を持っているのかを把握することが最初の業務でした。過去に入手した名刺情報や、前任者が担当していた仕入れ先の情報が瞬時に分かれば、担当者とのやりとりを自分のペースで進めていくことができます。リードタイムも短く、スピード感を持って対応できていると思いますね。
デジタルツールを活⽤して、物流という領域でどのようなことを 実現していきたいですか。
売り上げという形で会社に利益をもたらす営業部に対し、われわれ物流部はいわばお金を使う側で、いかにコストを削減するかが課題となります。ある商品の製造にかかっていた1000円のコストを、数社に見積もりをいただきながら、いかに900円にするかを考えなくてはいけません。こうしたコストの見直しに当たって、デジタルツールの果たす役割は大きいと思っています。仕入れ先からの見積もりなど過去のデータを残しておくことで、次回の商談に生かすこともできますし、現在は仕入れていない、いわば眠っている仕入れ先の情報を掘り起こすこともできます。すでに、そうした情報から新たな仕入れにつなげた実績も生まれており、今後もデジタルツールを活用しながら真剣に課題に向き合っていきたいです。
短期間で成果が出たことに
驚いています
驚いています
吉田 佳代 氏
代表取締役 CEO
企業として大切にしている考えについて教えてください。
梅乃宿酒造株式会社は、1893年に吉田熊太郎商店として創業、2023年に130周年を迎えた酒蔵です。もともとは日本酒から始まった会社ですが、新しい酒文化を創造するために、日本酒を使ったリキュールなども展開しています。最近はBtoBだけでなく、BtoC、DtoCにも力を入れているほか、アメリカ、アジア、オセアニア、ヨーロッパなど世界にも販路を広げ、現在25の国と地域に出荷しています。
創業130周年というと「歴史がありますね」と言っていただくのですが、創業200年、300年という酒蔵がたくさんある業界の中では、若い酒蔵です。それゆえ、昔から常に新参者の気持ちで、「伝統と革新」をというキーワードを大事してきました。伝統を守るだけでなく、伝統技術を礎としながら、時代に合わせた形で提供するといった革新も行うことにより、次の時代の伝統が出来上がる、つまりこれまでの伝統も守ることにつながると考えています。
取り組み後の変化について教えてください。
当社は自分たち自身でさまざまな改善を進めてきましたが、自分たちだけでできることには限界があります。例えば、蔵をより衛生的にするために何年もかけて調べてきたものが、外部の品質保証機関による規格を導入して管理するだけで、一気に改善する。良い仕組みがあるのであれば、それを導入した方が早いですよね。DXも同様です。外部の仕組みやツールを取り入れることで、より早く確実にパーフェクトに近いものが手に入るなら、そうすべきだと思うのです。Sansan導入についても、社内の情報共有が進んでいないことは承知していたので、費用対効果について確認した上で、導入するからには活用してほしいと担当者に念を押して承諾しました。
思っていた以上の成果が、それも短期間で出たことに驚いています。社員が新しいツールを積極的に取り入れ、活用し、いかに会社への貢献につなげるかを考えて動いてくれた結果でしょう。会社のモットーである「伝統と革新」を社員たちが体現してくれていることを確信すると同時に、躊躇する無駄な時間がない分、スピーディーに動ける会社であるとあらためて自負しています。今回の受賞で、普段表に出ない推進担当者を評価していただいたことも、とてもうれしく思います。
今後はどのようなチャレンジをしていきたいですか?
日本酒の酒蔵は、はっきり言ってDXが進んでいない業界です。そうした中で私たちがいち早くDXに取り組むことで、酒蔵にも活用できるんだという認識が業界に広がることを期待しています。日本酒造りにDXを取り入れることで「伝統と革新」をうまく融合させることは、当社の一番の目標でもあります。他の業界の方々にとっては、「あのような老舗の日本酒業界でも活用しているのだから」と、DXに取り組むきっかけになるかもしれません。梅乃宿は、お客様にワクワクを届けることをテーマに「新しい酒文化の創造」を掲げていますが、デジタルツールを活用すること自体が「新しい酒文化の創造」に間違いなくつながるはず。私はそう信じています。
- ※ ページ上の内容は2024年2月時点の情報です。