Sansan Innovation Award 2024
Sansan Innovator
INTERVIEW
- THAI TAKENAKA INTERNATIONAL LTD.
- 設立1974年
- 従業員数334名(2024年7月末時点)
- 事業内容建設業

目の前の業務が
楽になっただけでなく、
働き方そのものが変わりました
楽になっただけでなく、
働き方そのものが変わりました
受賞企業代表
梶川 裕 氏
株式会社竹中工務店
国際支店 管理部 総務人事グループ
グループリーダー
取り組み前の状況・課題について教えてください。
私がタイに赴任した2015年当時、タイ国内のマーケットは非常に競争が厳しい状況にありました。そのため、「いかにバックオフィスの生産性を高めていくか」が管理部門における大きなミッションでした。
最初の課題が、目の前にあった大量の紙でした。日本や、過去に駐在を経験したヨーロッパでも、それなりに紙は扱っていましたが、タイは桁違いに紙が多かったです。経理だけではなく、総務や人事も含めた管理部門全体において、ほとんどすべての書類が紙でやり取りされており、それはもう膨大な量になっていました。朝、出勤すると自席には大量の紙が積まれていて、1〜2時間かけてひたすらサインをするという毎日でした。
また、われわれ建設業のビジネスの特徴として、建設現場が各地に点在しているということが挙げられます。当社の場合、各現場 に経理担当者を配置して会計処理をした後で、紙の請求書を本社に集約するという作業を行っていたのですが、物理的な移動が伴うために、「請求書が今どこにあるのか」が分からなくなってしまうことがありました。結果として、請求書の所在を探すことだけで時間がかかってしまうということがありました。
そのような状況を解消するために、まずは、管理部門で取り扱う紙をすべて消し去りたいと、2〜3年かけて、調達システムや人事システムを電子化する取り組みを先に進めました。しかし、さすがに請求書だけは、請求書を発行するサプライヤーや協力会社の皆さんの負荷を増やさずに電子化することはできず、紙から卒業することはできないだろうと思っていました。
取り組みには、どのようなねらいがありましたか。
Bill Oneの導入は、われわれが抱えている「紙を減らしたい」という課題を解決しながら、「サプライヤーや協力会社に負担をかけない」ことを実現できる手段だと感じました。具体的な導入の効果として考えていたのは、次の3つです。
まず、経理業務の効率化です。それまでは、紙の請求書を受け取った後に担当者がデータを1件ずつ入力するというプロセスがあったため、業務工数が膨大になっており、効率化したいと考えていました。
2つ目は、タイ国内に点在する各現場の経理担当者を本社に集めることです。各現場に経理担当 者を複数名配置することは難しく、基本的には一人で経理業務を担うことになります。そうすると、経理のナレッジの共有が十分になされず、配置された本人は成長を実感しにくいため、なかなか人材が定着しませんでした。全員が同じ場所で働くことで、こうした課題を解決したいと考えていました。
3つ目はガバナンスの向上です。請求書のやり取りは今まで個人間で行われていたため、請求書が今どこにあり、どんな処理ステータスにあるのかが分かりませんでした。例えば、誰かが手元で処理を止めてしまっていたとしても気付くこともできませんし、支払いの遅延や決算のズレが起きてしまう可能性もあります。こういったやり取りやステータスを会社として可視化することによって、決算業務の効率化にもつながります。組織的な管理ができ、ガバナンスの向上につながると考えました。


タイでは紙や手書きサインの文化が根強く残っており、建設現場で紙の請求書を手渡しで受け取ることが日常だった。
どの ような影響や変化がありましたか。
紙で処理していたものを少しずつデジタル化してきたことで、「目の前の業務が変わる」という単純なものにとどまらない、大きな変化がありました。
例えば、経理担当者が同じ場所で働くようになったことで、コミュニケーションが活性化しました。若い社員にとっては成長の機会が増えることにもなり、「この会社でやっていこう」という意識を持てるようになっていると思います。
こうした取り組みは今ある業務を楽にしてくれるだけでなく、そもそもの業務プロセスや、仕事の仕方、働き方そのものも変えていくきっかけになると実感しています。そうした感覚は、経理部門の他のスタッフたちの意識の中にも生まれていると思います。
Sansan Innovation Awardの受賞を振り返ってみていかがですか。
今回の受賞は、当社にとって大変画期的なことでした。というのも、われわれ経理や人事の担当者は、直接建設に関わっているわけではないので、これまでの社内の表彰制度では対象外だったんです。Sansan Innovation Awardの受賞によって、一連の取り組みが対外的に認められたことで、タイの経理チームにとって非常に良いモチベーションアップになりました。竹中工務店の社内報にも掲載され、「梶川はこんなことをやっていたのか」と声をかけてもらうこともありました。
みんなで地道に取り組んできたことが報われ、管理部門のスタッフの士気を高めるきっかけとなり、自信を持つことにもつながっているのではないかと感じます。彼らのそんな姿を見聞きできたことが、私としても一番うれしいことでした。


今後はどんなことに取り組んでいきたいですか。
われわれは、目先の課題の解決や、単なる業務改善を目指すのではなく、「We are not an Operator, but a Business Partner」という高い目標を掲げて一連の取り組みを行ってきました。
現在は業務改善にとどまらず、経理のデータの有効活用というステージに入っています。今後はさらに経営にしっかり寄り添っていく存在になりたいです。
例えるなら、「経営のコンサルタントが社内にいる」というイメージでしょうか。経理であれば、お金に関わる情報をすべて網羅しています。それをただ処理して、決算報告をして終了ではなく、その中から得られるものをうまく活用して経営陣をサポートし、彼らのビジネスパートナーになっていけたらいいなと思います。
私自身も、タイでの経験を他の海外拠点や本社の他のグループにも展開していけるよう、取り組んでいきたいです。



チームの意識が変わりました。
もう紙を扱っていた頃には
戻りたくありません
もう紙を扱っていた頃には
戻りたくありません
受賞企業代表
Kannika Kemapathumsak氏
THAI TAKENAKA INTERNATIONAL LTD.
Administration Department
Accounting Group Manager
Sansan Innovation Awardの受賞に対する率直なご感想をお聞かせください。
今回の受賞は、私たちにとって大きな誇りです。
慣れ親しんだ仕事のやり方や考え方を変えるのはとても難しいことでしたし、初めての経験でもありました。今回の取り組みで成果を出すことができたのは、すべてのチームメンバーが同じゴールに向かって活発にコミュニケーションを行い、協力することができたからだと思います。さらに、会社のサポートや、他部署も含めたチームワークがあったからです。「この賞は私たちの部門だけでなく会社でもらったものだ」と私は思っています。
取り組みを経て、経理チームのメンバーの業務に向かう姿勢も変化し、関係者全員がデジタルツールの活用に関心を示すようになりました。以前に比べて変化に寛容になり、自分の考えを変えることもいとわず、より多くのアイデアを提案してくれるようになったと感じて います。
以前の状況について教えてください。
毎月受領する、約2000件の請求書のうちほぼすべてが紙の請求書で、確認や承認のフローも紙のままで行っていました。
あちこちが紙の山でした。グループマネジャーのデスクに承認待ちの紙の請求書を入れるボックスが置かれるのですが、月によってはそれが10個になることもありました。マネジャーが複数のプロジェクトを抱えているときは請求書の量も増えるため、それらの書類の承認に多くの時間がかかっていました。
また、各建設現場で取引先企業から直接手渡しで請求書を受け取っていたため、不備があった場合、修正の依頼をして、再度持ってきてもらわなければなりませんでした。とても時間がかかってしまい、請求書によっては、締め日までに決算に進めることができないものもありました。そのため、支払いの遅延が発生するなどの問題も発生していました。
請求書の受領時期と支払い時期は基本的に決まっているので、処理が特定の期間に集中してしまいます。1週間ほどのとても短い時間で処理に集中しなければならなかったため、その期間は他の仕事をする余地がありませんでした。


請求書をデジタルで受け取ることが一般的ではないタイにおいて、取引先向けに合計14回の説明会を開催し、協力を仰いだ。
業務はどのように変化しましたか。
とても大きな変化がありました。
まず、請求書の処理状況をトラッキングできるようになりました。請求書を受け取ったかどうかをBill Oneで常に確認することができますし、すべての請求書について誰が担当者なのかが分かり、承認状況を追跡することもできます。
紙の移送が不要になったこと、請求書の処理業務が効率化されたことで、チーム全体で月間約400時間を削減できました。長い間、経理チームは支払期日前の1週間ほどは残業を余儀なくされていましたが、それも減り、ワークライフバランスが改善されました。
紙ベースで確認や承認を行っていた頃には二度と戻りたくありません。私だけでなくチームメンバーの誰もがそうだと思います。
今後はどのようなことに取り組みたいと思われているか教えてください。
Bill Oneの導入によって毎月、1〜2日早く締め作業が終わるようになりましたが、今後はさらに処理時間を短縮していくことを目指しています。
また、経営陣に求められるビジネス上の意思決定のための分析データを、より正確に、かつ迅速に提供していきたいです。以前は必要な情報を探し出すのに2〜3日かかることもありましたが、今はシステム上でデータを入手し、瞬時に送ることができます。
タイ竹中の管理部門が掲げる「経営陣のビジネスパートナーになる」という目標に向けて、さらに取り組みを進めていきたいです。



データ分析と戦略策定に
より多くの時間を
費やせるようになりました
より多くの時間を
費やせるようになりました
Kusuma Chumpoo 氏
THAI TAKENAKA INTERNATIONAL LTD.
Administration Department
Accounting Group Manager
変化の前の状況について教えてください。
以前は、本社ではなく、タイ国内に点在している建設現場の一つで経理業務を行っていました。取引先から紙の請求書を受け取ったら、原本は本社に送るのですが、現場に記録を残しておくためにコピーを取る必要があり、とても手間がかかっていました。その後は、取引先への支払いを済ませるため、バスに乗って、限られた時間の中で書類を本社へ運ばなければなりませんでした。
月末月初はとても忙しく、締め日までに仕事を終わらせなければならないというプレッシャーがかかることもありました。
タイでも徐々に書類の電子化は進んでいますが、依然として紙の請求書が求められる場面はあり、完全な電子化にはまだ時間がかかるのではないかと思っています。


管理部門で目標を掲げたことで、会社全体の戦略や目標に貢献するための方法を探すなど、社員の視座が上がったという。
業務を変革したことで、どのような影響がありましたか。
スタッフの生産性とパフォーマンスが大幅に向上しました。
すべての請求書をBill Oneで一元管理できるようになり、報告や質問などもオンラインで簡単にできるため、コミュニケーションが活性化しました。
請求書を受け取ってから支払うまでのプロセスには、建設現場の担当者をはじめ、現場マネジャー、プロジェクトマネジャーなど多くのスタッフが関わります。Bill Oneを活用することで、大量の請求書の中から必要な請求書を見つけることが容易になり、彼らの確認作業や承認作業も効率化されました。
また、業務プロセスそのものも改善され、チームメンバーは各自のタスクの優先順位をより明確に設定し、短期間のうちに処理しなければならない業務であっても、対応できるようになっています。
請求書の処理にかかる業務工数が削減できたことで、データ分析と戦略計画に、より多くの時間を費やせるようになりました。経理だけでなく、現場の従業員の考え方も変わったと感じています。デジタル化や自動化に抵抗のあったメンバーも、必要不可欠なものとして積極的にデジタルツールを受け入れるようになりました。
今後の展望をお聞かせください。
現在は、会計システムのデータをBIツールでビジュアライズし、分析するダッシュボードを作り、毎月のマネジャー会議で使用しています。
また、「プロジェクトデータ管理システム」というものを導入しました。会計、受注、運用データなどのさまざまなデータソースを統合して、売上予測などの高度な分析を行ったり、AIを活用して財務データへのより深いインサイトを得たりしています。
今後は、コスト管理と購買システムを連携させてワークフローを作成し、さらなる業務効率化を進めるとともに、取引の透明性を向上させたいと考えています。



また次の50年頑張るためにも
リーディングカンパニーとして
新しいことに挑戦したい
リーディングカンパニーとして
新しいことに挑戦したい
橘高 博志 氏
THAI TAKENAKA INTERNATIONAL LTD.
President
Sansan Innovation Awardを受賞されてどのようなご感想をお持ちですか。
本当にうれしく、誇らしく思っています。海外拠点での受賞は初めてだということもお聞きして、非常に光栄に思います。
紙文化が根強く残っている中で、「紙をなくしましょう」と言うことはとても勇気のいることです。さまざまな抵抗があったと思いますが、管理部門のメンバーは本当に強い信念とリーダーシップを持って取り組みを進めてくれました。
一連の取り組みを振り返っていかがですか。
私たちは建設会社ですから、やはり「技術を売る会社」なんです。前面に出てスポットライトが当たるのは設計者や施工者になりがちです。
しかし、その中で、バックオフィス部門に所属するメンバーが自ら変革を起こしていくということが、会社やグループにとって非常に大きな意味を持っていると感じます。
技術を重視してきた会社ですから、バックオフィス部門で何か革命的なことをやろうという発想は今までほとんどありませんでした。今回の取り組みは社内外へのアピールになりましたし、「うちもやりたい」と思ってくれたグループ会社も多いと思います。


業界をリードする立場として、今後の展望をお聞かせください。
タイ竹中は、株式会社竹中工務店のグループ会社として、1974年にタイに設立され、2024年に50周年を迎えました。工場や大規模商業ビル、オフィス、病院、ホテルなど、これまでに約2000件の建物を手掛けてきました。
しかしここ数年間は世界情勢がめまぐるしく変わり、それにマーケットも敏感に反応して受注競争が激化しています。建設するものも変わり、「これまで通りにやっていてはだめだ、違うことをやらなければならない」と切り替えていくタイミングで迎えた50周年でした。
そんな中で今回 の取り組みは、バックオフィスにおいても新しいことに挑戦し、「会社は大きく変わっていく」というメッセージになったのではないかと思いますし、実際に経営に良い影響をもたらしました。紙の請求書を扱っていたときと比べて、月締めの数字が正確に、リアルタイムで分かるようになり、経営判断を素早く行えるようになっています。
また次の50年頑張るためにも、アジアのリーディングカンパニーとして新しいことに挑戦していきたいです。


- ※ ページ上の内容は2025年3月時点の情報です。