Sansan Innovation Award 2021
Sansan Innovator
INTERVIEW
- 株式会社八芳園
- 設立1943年
- 従業員数400名(グループ全体)
- 事業内容結婚式場・宴集会場・各種パーティー会場・レストランの運営ほか
デジタルを味方に。
守りと攻めのDXで
改革に取り組みました
守りと攻めのDXで
改革に取り組みました
受賞企業代表
薮嵜 正道 氏
取締役 経営管理部長
受賞理由となったDXの取り組みについて教えてください。
デジタル技術の導入による社内の生産性向上を目的として、「守り」と「攻め」の2つの局面でDXに取り組みました。守りのDXは、身近なものをデジタルに変えることから業務の無駄をなくす抜本的改革であり、チャットツールの導入や申請ツールのクラウド化などを行いました。攻めのDXは、SFAやMAツールなどの導入により、営業利益の向上や顧客接点の改革を目指すものです。
2017年ごろからまずは守りのDX、その後に攻めのDXと2段階で取り組む過程でSansanやBill Oneをはじめとするデジタルツールに出会い、今では10以上のツールを活用しています。
2020年7月にはDX推進室を立ち上げ、新規でDX事業もスタートさせました。リアルな結婚式会場に足を運ぶことが難しいゲストをオンラインでつなぎ、まるで同じ空間にいるかのような演出ができるオンラインプラットフォーム「WE ROOM」と、伴走型DX推進支援サポート「SOLVE EIGHT」という新しいサービスを提供していま す。
これまでの取り組みにおいて工夫や苦労はありましたか。
私が八芳園に入社した2013年当時は、目の前のお客様に精一杯尽くすことで売り上げを伸ばしていました。お客様に寄り添ったサービスの提供は八芳園の強みですが、仕組みを作ったり効率化したりすることは得意ではなく、他の業界に比べて大きく遅れていました。ここを改善すれば、営業もバックオフィスも改革できるのではないかと考え、DXに着手したのです。
営業出身だった私は、売り上げを上げたい一心で、MAツールなどをいきなり導入しようとして失敗した経験があります。弊社のスタッフは総じてデジタルリテラシーが高くなく、デジタルツールを使うことには抵抗や戸惑いがありました。
そこで、まずは勤怠管理や社員台帳などからデジタルに変えていきました。身近なものからデジタルに慣れ親しみ、効率化や便利さを感じることで、デジタルは味方だと思ってもらえるようにしたのです。それでも、新たなコミュニケーションツールとして導入したチャットツールが定着するまでに10カ月ほどかかりました。
守りのDXにより環境が整い、いよいよ攻めのDXだというところで、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われました。休業を余儀なくされ、八芳園の正門が閉ざされたのを見たときはショックでしたし、売り上げへのダメージも甚大でした。しかし、DX推進のための時間が生まれたんだ、これはきっとチャンスなんだと前向きに捉え直して、スピード感をもって改革していきました。
受賞した際の感想や周りの反応はいかがでしたか。
反響はとても大きかったですね。受賞を知らせるメッセージに対して、DX推進に携わってきたメンバーから次々とリアクションがありました。
普段は管理部門のスタッフに注目が集まることは多くありません。今回の受賞により、彼らが八芳園にとって大事な仕事を担っていることを社内外に周知することができ、非常に有意義だったと思っています。弊社のDX推進における、一つのターニングポイントとなったことは間違いありません。
受賞をきっかけにして、外部から「話を聞かせてほしい」とい うお声掛けをたくさんいただくようにもなりました。老舗の結婚式場だと思っていた八芳園がDX推進に取り組んでいることに驚かれ、同時に面白いと思っていただけているのでしょう。私自身も受賞をきっかけに外部とのつながりができました。それも1つや2つではありません。10や20といったボリュームでさまざまな交友が生まれたことで新しい知見が得られ、反響の大きさを感じているところです。
DXに試行錯誤したことで
新たな企業と出会えました
新たな企業と出会えました
DX推進担当者
德武 悠衣 氏
DX推進室 ITソリューションチーム サブマネージャー
受賞した際の率直な感想を教えてください。
受賞の連絡をメールで受け取ったときは、本当に息が止まりました。絶対に受賞しようと、Sansan Innovation Awardのための専門チームまで作っていたので、すぐに社内SNSでメンバーに連絡をしたところ、喜びの反応が止まりませんでした。
薮嵜や私はDXを推進する立場からSansan Innovation Awardの受賞を目指していましたが、実際にSansanやBill Oneを毎日のように使っているのは現場のスタッフたちです。いざ受賞すると、彼らが取り組んできたことの成果を外部から認めてもらえたと感じ、それが何よりもうれしかったです。
DXの推進によって、働き方に変化はありましたか。
以前はとにかく紙とペンを多用していました。残業申請一つを取っても申請書類にペンで内容を書いて提出していたのです。多くの紙を使うことにも、手で文字を書いたり、紙の書類を提出したりするような非効率的な作業にも、何の違和感も持たずにいました。
Sansanを使うようになってからは、スマートフォンで名刺を撮影するだけですぐにデータ化されるようになりました。誰が使っている名刺か、いつ交換したか、どんな商談を行ったかという情報が名刺にひも付けられ、ターゲットに合わせたメールを配信することもできます。ターゲット層を絞ることでメールの開封率も上がりました。
営業はSansan、経理はBill Oneを使い、他にも分析ツールや基幹システムを導入したことで作業コストが下がり、コロナ禍にありながらも営業売り上げが増加するという成果にもつながっています。
トライアンドエラーの経験を生かして他社の役にも立ちたい
現在取り組んでいることについて教えてください。
弊社でのDXの取り組みはトライアンドエラーの連続でした。今でこそ9割のスタッフがリモートワークで、ミーティングは主にオンラインで行っていますが、私も含めスタッフの多くが「Zoomって何?」という状態から始まったのです。この経験で他社さまの役に立てるのではないかと思い、伴走型DX推進支援サポートを行う「SOLVE EIGHT」というサービスを立ち上げました。
ツールを販売するのではなく伴走するイメージで、お客様の業務フローを理解するところからシステム構築までをプロデュースするサービスです。SOLVE EIGHTをご利用いただいているお客様から「八芳園ならずっとそばでDX推進を支援してくれると思った」という言葉をいただいたときは、とてもうれしかったですね。
デジタルの活用によって、今まで出会ったことのない企業、お会いできなかったお客様とのご縁がつながりました。何事も、少しずつでもいいから進めていくことが大切だと実感しています。サービス業として長い歴史の中で培ってきた八芳園らしさを、デジタルの力により強化し、新たな提案を行っていきたいです。
デジタル活用に
前向きになったら
提案も変わってきました
前向きになったら
提案も変わってきました
営業担当者
岡村 茉優 氏
八芳園プロデュース事業部
コーポレートイベントプロデュースセクション リーダー
DXの取り組みを行う前を振り返ってみていかがですか。
私が所属している部署では、企業さまのイベントや個人の節目のお祝い、ドラマや映画の撮影など、多岐に渡るイベントプロデュースを年間1000件ほど承っております。初回の商談から打ち合わせ、当日の立ち会いまで一貫して行っているのが特徴です。企画ごとに担当者が付いて進めているため、以前は情報の集約が課題になっていました。というのも、問い合わせ管理や勤怠管理、日報、交通費申請など、ほとんど全ての作業を紙ベースで処理していたために担当者しか分からない部分が多く、チーム内で共有できていなかったのです。
紙で処理することの効率の悪さにも課題を感じていたのですが、一方でデジタルツールという新しいものを使うことに対しても、私たちのチームは少しマイナスのイメージを持っていました。ずっとやってきたやり方を変えなければならないわけですから、「また新しいことを覚えるのか」 と躊躇していました。
しかし、使っていくうちにデジタルで行う業務の効率の良さに気付き、若手メンバーが上司に働き掛けるような場面も生まれ、積極的に使うようになりました。時代に合わせて仕事のやり方も変えていくことに、チームのメンバーが前向きになってきたと感じています。
DXによって、働き方はどのように変わりましたか。
まずは勤怠管理や日報などの毎日行うルーティンワークからデジタル化が進みました。一つずつ使いながら慣れていくうちに手間の少なさや便利さに気付き、その経験が少しずつ意識を変えることにつながっていったのではないかと思います。
最も大きな変化は、一つの処理にかける時間が圧倒的に短縮されたことです。そのおかげで 、お客様と向き合う時間を多く作れるようになりました。Sansanを利用することで、名刺管理だけではなく商談履歴も追えるようになり、課題として挙がっていた情報管理やチームメンバー間での情報共有も実現できています。
デジタルの活用は、今までできなかった新たな提案にもつながっています。例えば、これまではスペースやレイアウトによって会場を提案していましたが、お客様の課題解決を重点的に考え、オンラインプラットフォーム「WE ROOM」を使ったオンラインとリアル会場を結ぶという自由な発想から生まれたアイデアを提案するようになり、提案の幅が広がりました。
デジタルを使うようになってから、オンライン、リアルを問わず、新しいお客様と出会う機会が少しずつ増えているのを実感しています。従来のやり方に固執せず、既存のお客様にも新しいお客様にも、これからのイベントの在り方を提案していけたらと思っています。
会社の未来をつくる仕事に
時間を割けるようになりました
時間を割けるようになりました
経理担当者
平沼 快允 氏
経理部 マネージャー
DXの推進前に課題だったのは、どのようなことでしたか。
八芳園の経理部では、月に800件の請求書を処理しています。1件に紙1枚というわけではなく、明細が添付されていることもあり、最終的に処理する紙の枚数は2000枚にも及んでいました。守りのDXにより社員台帳や勤怠管理がデジタル化されていく総務部の隣で、経理部は相変わらず大量の紙の請求書を処理しており、なんとかしなければという思いはずっと抱えていました。
そこに襲ってきたのが新型コロナウイルスの感染拡大です。八芳園は創業以来初めて2カ月間休業することになり、経理部のスタッフもリモートワークを指示されましたが、紙の請求書の処理をするために出社を余儀なくされることが多くありました。さらにコスト削減を進めなければならない状況で、経理部のスタッフは12人から6人に減り、戦力が半減した状態で今まで通りの業務をしなければならないことも大きな課題でした。
DXによって、どのようなことが変わりましたか。
Bill Oneを導入したことで、経理部のスタッフも、請求書を受領する各部署の現場のスタッフも、みんながリモートワークできるようになりました。また、紙で届いた請求書を開封して、振り分けて、スキャンして、ワークフローにアップロードするという手間が一切なくなったことも大きな効果です。
こうしたデジタルツールの導入に抵抗のある現場のスタッフも少なくなく、「楽になるのは経理部だけだろう」と言われたこともありました。ところが、Bill Oneに関しては効果の実感が早く、導入して2カ月目には、楽になるのは経理だけだと言っていた人たちが「作業が楽になった、ありがとう」と言ってくれて、とてもうれしかったことを覚えています。
今回の受賞についても、発表された瞬間にみんなで立ち上がって喜びを分かち合いました。事務所で授賞式をリアルタイムで見ていたのですが、経理部、総務部、DX推進室のスタッフと共に、わーっと盛り上がりました。
かつては全業務時間のうち、ルーティンワークが9割を占めていました。今はBill Oneのおかげで、予算作成といった会社の未来を作る仕事に5〜6割の時間を割けるようになりました。これは本当に大きな成果だと思っています。
いつまでも在り続けるためには
恐れず変化することが必要です
恐れず変化することが必要です
役員
薮嵜 正道 氏
取締役 経営管理部 部長
DXの取り組みの中で大切にしていたのはどのようなことですか。
八芳園は江戸時代から受け継がれてきた庭園を有し、今も大切に守っています。「日本のお客様には心のふるさとを。海外のお客様には日本の文化を。」というビジョンを掲げており、「いつまでも在り続ける」ことが企業としての大切なミッションです。
八芳園が守ってきた文化は、変えることなく守り続けていかなければなりませんが、会社の仕組みについては勇気を持って大きく変える必要がありました。会社を取り巻く社会環境は劇的に変化しているからです。ただ、大きな変化は一気には起こせません。DXにおいても「X(トランスフォーメーション)」を大切にしながら、少しずつマイナーチェンジを行い、変化を積み重ねていくことが重要だと思っています。
DXの取り組みを通じて得られた、一番の成果は何ですか。
新しい文化が生まれたことだと思います。
八芳園のスタッフは 、目の前のお客様を喜ばせることにおいて力を発揮します。この力はどこにも負けないと自負しています。ただ、お客様に対する提案は次々と出てくるのですが、自分たちが使っているツールを変えよう、活用しようという発想を持つことはほとんどありませんでした。
それが、今では現場のスタッフから「デジタルを武器にしてこんなことがしたい」と声があがるようになりました。デジタルツールは管理部門から与えられるものという感覚も少なからずあったと思うのですが、デジタルを味方にすれば目の前にいないお客様も喜ばせることができると自分たちで気付き、自ら提案するようになりました。
ホスピタリティー産業には多様な雇用形態のスタッフが多く従事しており、業務は上からの指示を待ち、一方通行であることが常です。この文化はそう簡単に変わらないと思っているからこそ、新しい文化が生まれたことを実感したときは、感動を覚えるほどうれしかったです。
今後の展望を教えてください。
デジタルを武器として使えるようになり、「結婚式場の八芳園」ではなく、イベントや各種企画を総合的にプロデュースできる企業になっていくことを目指しています。
なかなかデジタル化が進みにくい、遅れている業界だとは思うのですが、少しずつでもデジタル化に取り組める企業が増え、それによって業界自体が活気づき、デジタルとおもてなしが融合する世界が作られることを願っています。もちろん、私たちもモデルケースとしてその一端を担えるよう、挑戦を続けていきます。
- ※ ページ上の内容は2022年8月時点の情報です。