Sansan Innovation Award 2020
Sansan Innovator

INTERVIEW

ディップ株式会社

求人情報サイト「バイトル」「はたらこねっと」などの人材サービス、定型業務の自動化をする「コボット」などのDXサービスを提供することで、労働力の諸課題の解決を目指すディップ株式会社。独自のCRMアプリ「レコリン」を自社開発し、Sansanと連携させて活用することで営業DXを実現させ、営業現場の働き方に大きな変化をもたらしました。

  • ディップ株式会社
  • 設立1997年
  • 従業員数2173名 ※ 契約・アルバイト・派遣社員除く(2021年4月1日現在)
  • 事業内容求人情報サイト「バイトル」「バイトルNEXT」「バイトルPRO」「はたらこねっと」などの運営、看護師転職支援サービス、DXサービス「コボット」の開発・提供ほか
interview

会社にとって
大きなアップデートに
なりました

受賞企業代表
亀田 重幸
商品開発本部 次世代事業統括部 dip Robotics 室長

営業DXの取り組みについて教えてください。

営業DXに取り組み始めたのは、2015年頃です。当時は、すでに1000名以上の営業担当者がいて、私は新規事業の推進責任者をしていました。「テクノロジーを使って、営業効率をもっと上げられないか」という社長からのオーダーがあり、営業DXに取り組むことになりました。

当時は、紙の手帳と表計算ソフトを使った営業活動が日常的に行われていました。そういったアナログで非効率な文化をどうやって変えようかということから考え始めました。その一方で、CRMは導入されていましたが、顧客や商談のデータがあまり入力されておらず、テクノロジーが活用されているとは言い難い状況でもありました。

その当時にも、世の中にはたくさんのツールがありましたが、自社の営業活動に沿った必要なものを考えていくと、既製のツールでは合わないということが分かり、自社で「CRMを作りたい」という思いが強くなりました。そういった経緯で、CRMアプリ「レコリン」の自社開発に取り組むことを考えました。

ディップが独自に開発したCRMアプリ「レコリン」。UIデザインにもこだわり、営業担当者が「毎日使いたいもの」を目指した。

レコリンの開発は、どのように進めましたか。

まずは、営業現場の課題を改めて知ることから始めました。営業担当者が何に困っているのか、何を使っていてどのくらい不便なのか、自分で実体験してみないと分かりません。そこで約3カ月間、神田の営業所に通って、営業の現場を徹底的に観察しました。営業所に通い詰めるうちに、いろいろな課題が見えてきました。リストからどのお客様にアプローチするかというピックアップに時間がかかっており、その作業をするために実際の営業活動にかけられる時間が削られていました。また、そのときに使っていたCRMはパソコンからしか利用できない上に検索が遅く、商談履歴の入力にも手間がかかっていたことも分かりました。

レコリンの開発に当たっては、まずは特定の営業担当者一人に絞って、その人が絶対に毎日使いたいものを作ろうと決めました。そのときに対象としたのが、佐口という営業担当者です。100人が使えるものを作っても、どこかで「使いづらい」という声は出てきしまう。それならば、一人だけのためにCRMを開発して、その人が毎日使っていれば、その後は口コミで他の人に必ず広がっていくだろうと考えました。佐口のために30~40個のプロトタイプを作り、実際に使ってもらってフィードバックをもらいながら、何度も試行錯誤を繰り返し、レコリンの開発を進めました。

絶対に毎日使いたいものを作ろうと決めました

Sansanの活用方法や得られた成果について教えてください。

レコリンの開発と活用を進めていく中で、レコリンと連携させるサービスとして選んだのが、Sansanです。社内にある顧客データに関する情報の精度をより上げていくことを考えたときに、Sansanがベストだなと思いました。レコリンの活用は始まっても、正しい企業情報が社内になかった状態でした。そこで、Sansanに登録された情報とレコリンに登録された情報を突合させることで、正確な顧客情報が得られるようにしました。

レコリンの利用率は、営業担当者の99%にまで達しました。レコリンがアプローチすべき顧客を自動的にピックアップするので、営業の前段階の作業が効率化され、接触件数が大幅に増加しました。商談履歴も約30秒で入力できるため、管理職への報告も極めて短時間で完了します。管理職にとっても、各営業担当者がどのような活動を行っているかを一目で把握することができ、適切な指示や戦略立案が可能になりました。また、スマートフォンで操作できるため、いつでもどこでも業務を行うことができ、リモートワークにおいてもスムーズに営業活動を進められるようになりました。

改めて考えると、営業現場がデジタル化されたことが一番大きかったと思います。営業DXに取り組んだことで、営業の現場からだけでなく、バックオフィスのメンバーや役員からも「データを使おう」「データを取りにいこう」という会話が出てくるようにもなりました。会社全体の意識改革にもつながりましたし、ディップにとって大きなアップデートになったのではないかなと思います。

Sansanに登録した名刺の情報は、レコリンと連動させて活用している。正確な顧客情報に、商談内容や次の営業行動のためのメモをひも付けて記録できることで、営業効率が向上した。また、オンライン商談の実施やリモートワークへの移行もスムーズに進んだ。

受賞した際の感想や周囲の反応はいかがでしたか。

社内で取り組んできた営業DXの取り組みが外から評価されたことは、非常にうれしかったです。一緒にレコリンを開発したメンバーからも「おめでとう」という言葉をもらいました。自分がやってきたことは、社内からだけでなく、社外から見ても、ちゃんと評価される内容だったんだなと、改めて身をもって感じました。

レコリンの開発や導入をはじめ、営業DXは一人じゃできなかったと思っています。営業経験がなく、新規事業を担当していた当時の私を営業現場や営業企画の皆さんが快く受け入れてくれたからこそ実現できたんだと思います。そして、今回の取り組みを通して、社内で横の連携ができたことにも非常に感謝しています。

現在取り組まれていることについて教えてください。

現在は、アプリ開発やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを活用して社内業務を効率化する組織「dip Robotics」の室長として、営業DXだけでなく、社内DXの推進も担当しています。また、営業担当者と開発者、企画者で組織を作り、新たな営業DXにも取り組みながら、営業活動におけるバックオフィスの効率化にも向き合っています。また、「dip Data Design Lab」という新しくデータをデザインする組織を立ち上げました。社内の各組織に蓄積されたデータを統合・分析し、UXデザインの考え方を活用して新たなプロダクトを生み出すプロジェクトを進めています。この組織を拡大し、データを使って、より本来のDXを起こすことにも挑戦していきたいと考えています。

商談をして、実際にお客様のニーズを聞くことは、営業担当者にしかできない仕事だと思っています。だからこそ、そこに注力してもらうために、リストのピックアップや入力の支援といった自動化できるものは極力自動化していく、楽にする。そして、開発側が一方的にツールを作るのではなく、現場の課題を解決しながら確実に浸透していくような、そんなツールやシステムを作っていきたい。人に寄り添って、困っていることを聞き出し、その課題を解決することで、その人を楽にしてあげたい。それが、私の原点です。これからも、そういった方針でやっていきたいなと思っています。

interview

以前のような営業は考えられない。
働き方が変わりました

佐口 創一
エリア事業本部 東日本エリア事業部
新橋営業部 2課 リーダー/採用コンサルタント

営業DXによって、仕事はどのように変わりましたか。

ストレスがなくなって、働き方が変わりましたね。初めて使ったレコリンは、すごく使いやすかったことを記憶しています。それまでは、かばんの中から紙を取りだして、もしくはパソコンを開いて、お客様に電話するケースが多かったのですが、その無駄な作業が本当に一切なくなりました。今は、スマートフォンでレコリンを使って、どこからでもすぐに連絡できます。また、電話でアポイントメントを取る際には、ターゲットのリストアップにかなりの時間を要していましたが、現在はレコリンが自動的に対象をピックアップしてくれます。そういった無駄な作業が減ったことで、お客様に接触できる件数は1日平均30件から60件にまで増えました。

商談履歴の入力もあっという間にできるので、上司への報告もすごく楽になりました。レコリンに入力された内容を見た上司がチャットツールなどで連絡してきて、その場でアドバイスを受けたり、相談したりもしています。過去の商談内容もすぐに確認できるため、例えば「秋頃に募集をかける」と言っていたお客様には、この時期にアプローチしてみようかなど、過去の商談内容に基づいた行動ができるようにもなりました。仮説を立てて計画的に行動できるようになったことで、営業のスタイルが変わり、成約率も上がったと感じています。

仮説を立てて計画的に行動する営業スタイルへと変わり、成約率もアップしました

パソコンを立ち上げる必要があった顧客情報や商談の入力は、スマートフォンで行えるようになり、上司とのコミュニケーションも、スピーディーかつスムーズになった。過去の商談内容に基づいて、顧客にとって最適なタイミングでアプローチすることも実現した。

レコリンの開発が始まった当時の印象を教えてください。

その当時、私は入社2年目だったのですが、本社から営業所へ新規事業の推進責任者が来ると聞いてすごく驚いたのを覚えています。それから3カ月間、営業現場に寄り添いながら、私の業務をずっと観察していました。営業活動の途中で「どうしたらもっと便利になる?」と、私にたくさん質問をしてくれて、「どうやったら良くなるのか」ということを本当に追及しているように感じました。その当時、私が挙げた要望のほとんどがレコリンの機能として実装されていると思います。

今回の営業DXの取り組みによって起きた変化は、当たり前のものとして浸透していると思います。私自身、もはやレコリンがない状態で営業をすることは考えられません。また、私より年次が浅い新卒のメンバーにとっては、レコリンは最初からあるもので、当たり前に使うツールとして活用しています。社内では「レコリンの生みの親」と言われることもあるのですが、亀田さんには本当に感謝していますし、自社の取り組みが評価されてSansan Innovation Awardを受賞したこともうれしい報せでした。

interview

コミュニケーションが活発になり、
一人ひとりの活動量や
営業の精度が向上しました

延山 淳
人材サービス事業本部 営業企画統括部 戦略推進部 部長

営業DXに取り組まれた当時の話を教えてください。

私は、データ分析や営業活動のモニタリング、商品や企画の立案を行いながら、営業活動全体の支援・サポートを担当する部門に所属しています。他社のCRMを4~5年ほど使って、営業活動の入力と定量的な行動の把握に取り組んでいました。

データ分析を行う側としては、「営業担当者に入力をしてほしい」「正しく営業活動の履歴を把握したい」と考えていた一方で、営業現場にとってデータを入力することは工数がかかって非常に面倒くさい作業であったため、なかなかデータ入力が徹底されない状況が続いていました。だからこそ、営業担当者がお客様と何を話して、どのような課題を見つけ、それに対して何を提案したのかということを定量的・定性的なデータとしてスピーディーにキャッチして活用することが強く求められていた時期でもありました。

レコリンが開発されて、どのような変化が生まれましたか。

営業担当者の99%がレコリンを使うようになったことで、それまであった「入力がされない」という問題は解消されました。さらに、入力のために必要だった年間約6万時間分の作業時間がレコリンを活用することによって削減できたので、営業が本来行うべき業務に取り組むことができるようになり、非常に生産的な活動につながったと思います。また、コミュニケーションツールや他のクラウドサービスなどをレコリンと連携させることで、コミュニケーションが促進され、1時間単位で行動履歴を把握することもできるようになりました。

最も大きかった変化は、入力された情報を基に管理職と営業担当者のコミュニケーションが活発になったことだと思います。営業担当者が入力した内容に管理職がレスポンスすることで、次の行動やアクションが変わり、一人ひとりの活動量や営業の精度が向上しました。また、担当者が入力を工数として捉えず、日々の業務の一部として自然に行う習慣が生まれたことで、営業担当者が自身の活動を振り返り、自発的にPDCAを高速で回していけるような状態を作ることができました。

私の部門としても、営業担当者の行動を定量的に素早く把握できるようになり、そこから課題を見つけることもできるようになりました。また、それまでなかなかつかみきれなかった定性的な情報も得られるようになり、その情報を商品開発や戦略立案に活用できるようにもなりました。日々、マーケットの状況やお客様のニーズは変化していきます。そうした変化を素早く正確にキャッチして、レコリンとSansanに登録されたデータをさまざまなシステムとつなげて活用することで、営業活動の質をさらに上げていきたいと考えています。

interview

やりたいことの第一歩は踏み出せました。
DXで社会全体を改善していきたい

井上 剛恒
執行役員 エリア事業本部 本部長

今回の変化をどのように感じていますか。

やりたいことの第一歩は、うまく踏み出せたかなと思っています。まだまだ道半ばですが、営業活動の内容を入力する側も、それを見る側も大変だった状況が変わり、さまざまなことが可視化されて、いい方向に循環するようになりました。また、定量的な結果がちゃんと取れているので数値に基づいた戦略が立てられますし、「こうなっているから、こうしてください」と根拠を示しながら、説得力のある指示を出すこともできます。

ただ、そこに至るまで営業DXを社内で浸透させることには、本当に苦労しました。生産性を高めることを目的にしているのに、営業現場からすれば入力の手間が増えるとネガティブな受け止め方をされることもありました。そこで、ただ「やりなさい」と指示するのではなく、「こんなことが便利になって、こういうことに役立つんだ」と、背景や目的も含めて根気強く伝え続けました。そうやってコミュニケーションを取り続けたことで、徐々に変化が浸透していって、いかに非効率なことに時間や工数をかけていたかということを自覚してくれるようになったので、現在では何も言わずに当たり前のようにレコリンを使っていると思います。

ディップ(dip)という社名は「dream」「idea」「passion」の頭文字に由来。企業理念として「私たちdipは夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる」という言葉を掲げている。

今後の展望についてお聞かせください。

企業文化として、ユーザーファーストであることをすごく大事にしています。とにかくユーザーの視点に立って、ユーザーがより便利になること、ユーザーの役に立つことを軸にサービスを展開しています。少子高齢化により、日本の労働力不足はますます深刻化していきます。そこで、私たちは「バイトル」「はたらこねっと」など求人情報サイトを中心とした人材サービスを通してHuman Work Forceを、企業のDXを手伝う「コボット」といったDXサービスを通してDigital Labor Forceを提供することで、2つの側面から労働力を提供する「Labor force solution company」として、総合的に労働力の諸問題を解決していくことを目指しています。

私たちが営業活動を行っていくに当たっては、お客様にいち早くアプローチすることが重要です。営業DXによって集まったデータやさまざまな情報を組み合わせて駆使することで、これからニーズが出てくるであろう企業をどこよりも早く察知して、アプローチしていく。まだ着手したばかりですが、データが活用できるようになった今だからこそ取り組める施策だと考えています。

お客様にDXをしっかりと提供していくためには、まずはディップで働く社員一人ひとりがデジタルツールの便利さ・有用性を実感し、使いこなせていることが不可欠です。そして、これからDXを最も必要とするのは、さらに進む労働力不足の影響を一番受けてしまう中小規模の企業だと考えています。労働力不足という課題の解決につながるDXをそういった企業に提供していくことで、社会全体の改善につなげていけると考えています。

  • ※ ページ上の内容は2021年12月時点の情報です。